ニュージランドの原子力発電

環境に優しい電力供給
 日本人にとって身近な「原子力発電」。だが、ここニュージーランドには、原子力発電所は一基も存在しない。ニュージーランドは、核を保有しない「非核宣言」をしている国なのである。これまでも、ニュージーランドに入港しようとしたアメリカ合衆国の原潜を門前払いにしたり、ムルロア環礁で強行したフランスの核実験に対して、激しく抗議するなど、核に対する強い姿勢を一貫してきた。日本ではあまり知られていないが、ニュージーランド南島にある町クライストチャーチでは、毎年8月6日は「HIROSHIMA DAY」と呼ばれ、「ヒロシマ原爆忌」が行われている。日本人被爆者による朗読会や、広島の原爆をテーマにした劇が公演され、なんと、このイベントは今年ですでに29回目を迎える。ニュージーランドにとって、原爆の標的となった広島は決して遠い国の話ではなく、「ネバー・アゲイン・ヒロシマ」はこの国の切なる願いでもあるのだ。


●カラピロ湖
水力発電のために作られた人造湖。
 原子力発電所のないニュージーランドでは、恵まれた水源を利用した「水力」が全電源の70%を占め、残りの30% を「火力」、「風力」、「地熱」で補っている。自然の力に頼った電力は環境には優しいが、いいことばかりではない。そもそも、供給量を一定に保つことが難しい。ヒーターを利用する冬は、電気の需要が増えるため、電気の基本料金が値上がりする。また、雨量が減れば主電源である水力が弱まるため、電力の供給が減ってしまうのではないかという不安も生じる。それでも、ニュージーランド人たちは、決して原子力発電に頼ろうとはしない。


●ワイラケイ地熱発電所
1958年より創業を開始し、現在ではアメリカ、メキシコにつぐ規模を誇る。 地下にあるマグマを利用した地熱発電は、火山が多いニュージーランドならではの電力。

 もちろん、だからと言って、「日本もニュージーランドに習うべき」とは一概には言いがたい。日本のおよそ4分の3の国土に4百万人の人々が住むニュージーランドと、1億2千万人が住む日本では、電気の需要量が違うのは明らかである。しかし、日本は必要以上の電気を浪費しているのも、これまた事実ではないだろうか。先日、「上空から見た真夜中の日本列島」という写真を見たが、真夜中だというのに、東京や大阪といった大都市を中心に、日本列島は異様なまでに光り輝いていた。

 一方、私の住むオークランドはニュージーランド最大の都市にもかかわらず、夜になると町の中心部でさえ、必要最低限の街灯が点くだけで、薄暗い。人気(ひとけ)のない日曜日の夜など、まるでゴーストタウンのようである。住宅街はさらにひどく、外は闇のように暗くなる。外灯の数が少なく、家からもれる明かりがほとんどないためだ。東京からオークランドにやって来た当初は、その暗さに驚いたものだが、実際には生活するのになんら支障はなく、今ではすっかり慣れてしまった。あの日本列島の写真を思い出すたび、日本だって、原子力発電を減らすことや、安全で環境に優しい電力を増やすことがきっとできるはず。そう思わずにはいられない。

畑中美紀(ニュージーランド・オークランド在住/ライター)



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